「今より年収が50万円上がります」
そう聞けば、心が動きますよね。貯金を増やせる。家族で旅行に行ける。毎月の支払いにも、少し余裕ができるかもしれません。
では、その転職で残業が月20時間増え、通勤が片道30分長くなるとしたら、どうでしょうか。
年間240日出勤する場合、残業と通勤に使う時間は、合わせて年480時間増えます。1日8時間に換算すると、60日分の長さです。
年収50万円の増加と、この時間の変化。どちらを優先するかは、いまの暮らしや転職の目的によって違うはずです。まずは二つを同じ紙に並べてみませんか。
以下では架空の比較例を使い、求人票の年収だけでは見えにくい「転職後の毎日」を考えます。自分の条件で計算する式と、企業へ聞く言葉も用意しました。
年収450万円と500万円。暮らしの違いを比べてみる
次の条件を仮定します。実在の企業や相談事例ではありません。
| 比較する条件 | 今の会社 | 転職先 |
|---|---|---|
| 額面年収 | 450万円 | 500万円 |
| 年間の出勤日数 | 240日 | 240日 |
| 月平均の残業時間 | 10時間 | 30時間 |
| 片道の通勤時間 | 15分 | 45分 |
| 年間の残業時間 | 120時間 | 360時間 |
| 年間の往復通勤時間 | 120時間 | 360時間 |
| 残業と通勤の年間合計 | 240時間 | 720時間 |
※両社とも全日出社し、所定労働時間と休憩時間は同じとします。年収は、それぞれの残業代・手当・賞与を含む年間総支給額の想定です。出勤日数は比較用の仮定で、自分で計算するときは有休取得なども反映してください。
年収は50万円増えます。一方、残業と通勤の合計は、720−240=年間480時間増えます。
月平均では40時間。平日の夕食、運動、勉強、家族と過ごす時間に、どんな影響があるでしょうか。
もちろん、収入を優先したい時期もあります。挑戦したい仕事に就けるなら、この条件を選ぶ理由にもなるでしょう。
収入を取る選択にも、時間を取る選択にも理由があります。ただ、「通勤がこんなに負担になるとは思わなかった」という見落としは、決める前に減らしておきたいところです。
片道30分の差は、年間240時間になる
通勤時間は「片道」だけで見ると、差が小さく感じられます。
今回の例では、片道の差は30分。往復では1時間なので、年間240日出勤すると、それだけで240時間の差になります。
片道の通勤時間の差 × 2 × 年間の出社日数 = 年間の通勤時間の差
電車に乗っている時間だけでなく、自宅から駅までの移動、乗り換え、駅から職場までの徒歩も含めて比べましょう。可能なら、実際の出勤時刻で経路を調べると、入社後の生活を想像しやすくなります。
在宅勤務がある場合は、実際に出社する日数で計算します。「在宅勤務可」という記載だけでは、自分が週に何日利用できるかまでは分かりません。配属予定の部署での運用を確認したいところです。
また、同じ45分でも、座って移動できる場合と、混雑した電車で乗り換えを繰り返す場合では、感じる負担は違います。数字に加えて、無理なく続けられるかも考えてみてください。
自分の条件で計算するなら、この2つ
スマートフォンの計算機でも比べられます。今の会社と転職先の数字を、次の式に入れてみてください。
① 年間の残業時間=月平均の残業時間×12
② 年間の通勤時間=片道の通勤時間〈分〉×2×年間の出社日数÷60
①と②を足し、転職先と今の会社の差を出せば、今回の例と同じ比較ができます。繁忙期がある場合は、直近1年の合計や月ごとの実績を確認すると、より具体的に見積もれます。
これは残業と通勤に絞った生活上の比較です。通勤時間を法律上の労働時間として扱ったり、残業代の単価を計算したりするものではありません。
勤務時間や休憩時間、年間に働く日数も変わるなら、もう一つ計算が必要です。各社の「(1日の所定労働時間+休憩時間)×年間に実際に働く日数」を出し、その差も加えてください。在宅勤務日は、通勤時間の計算には含めず、働く日数には含めてください。休日の条件は、年間休日105日〜125日の違いと求人票の見方で整理しています。
「年収50万円アップ」の中身もそろえる
時間を比べる前提として、年収の計算条件もそろえておきましょう。
たとえば、今の会社は「実際に受け取った年収」、転職先は「賞与が満額出て、一定時間残業した場合の想定年収」なら、単純には比較できません。
見比べる場所は、まず次の3点で十分です。分からない金額は推測せず、質問するための空欄にしておきましょう。
- 基本給と手当: 何が毎月支給され、自分はどの手当の対象になるか。
- 残業代: 提示年収に含まれているか。何時間の残業を想定しているか。
- 賞与: 確約された額か、業績などで変動する見込み額か。入社初年度の扱いはどうなるか。
固定残業代がある求人では、基本給との区分、対象となる時間数と金額、超過分の追加支給を確認してください。厚生労働省も、これらを明示すべき事項として案内しています。厚生労働省「労働条件の明示」
なお、固定残業代の対象時間数と、実際の残業時間は別の情報です。「30時間分が含まれる」と分かったら、配属先で実際にどのくらい残業しているかも聞きましょう。
税金や社会保険料もあるので、額面の増加額がそのまま手元に残るわけではありません。家計を考えるときは、その違いにも気をつけたいですね。提示条件の詳しい確認方法は、オファー面談と年収交渉の進め方も参考にしてください。
面接・オファー面談で使える5つの質問
聞き出したいのは、入社後の生活を想像できる具体的な情報です。次のように、配属先や期間を絞って確認してみましょう。
残業の実態
「配属予定の部署について、直近1年間の月平均残業時間と、繁忙期の目安を教えていただけますか」
在宅勤務の運用
「この職種・配属先では、現在、週に何日程度の在宅勤務が可能でしょうか。試用期間中の扱いも確認したいです」
勤務地の見通し
「入社時の勤務地と、将来変更される可能性のある範囲を教えていただけますか」
年収の前提
「提示年収のうち、毎月支給される額と変動する額の内訳、初年度の支給見込みを確認できますか」
勤務時間外の対応
「終業後や休日に、顧客対応や緊急連絡への対応が発生することはありますか。ある場合は頻度や担当の決め方を教えてください」
勤務地については、2024年4月から、募集時などの明示事項に「就業場所の変更の範囲」も追加されています。今の勤務地に加え、将来の変更範囲も確認しましょう。厚生労働省「募集時等に明示すべき事項」
回答はメモに残し、内定承諾前に、提示された労働条件通知書などとも照らし合わせてください。不明な項目は「たぶん大丈夫」で埋めず、確認したい項目として残しておきましょう。
最後に、「何時に帰れる毎日か」を考える
年収が増えたら、何に使いたいでしょうか。反対に、平日の帰宅が一時間早まったら何ができそうですか。金額だけでは決まらない答えが、そこにあるかもしれません。
子どもと夕食を食べる。資格の勉強をする。趣味を続ける。しっかり休んで、翌日の仕事に向かう。
自分が守りたい時間を、ひとつ具体的にしてみてください。そのうえで、収入、仕事内容、将来身につく経験と一緒に比べてみましょう。
内定の返事をする前に、「年収はいくらか」と「何時に帰れる毎日か」を、同じ紙に書いてみる。
「年収は上がるけれど、平日は家族と食事を取れなくなりそう」。そこまで見えれば、企業に確認したいことも具体的になります。迷ったときは、内定を承諾するか迷うときの判断方法の比較表も使って整理してみてください。
公的情報の確認日:2026年9月24日。記事中の金額・時間は、条件を仮定した比較用の試算です。


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